イレーンとは一夏前に出逢ったが、お互いに気になる存在だ。
お互いに陶芸家でもあり、同じ年頃、しかもメイン州に住んでいるアジア系の人間だからだ。西海岸と違って、東海岸のはじっこにあるメイン州にはアジア人はほとんどおらず、黒い毛の羊的存在にあたる。
友好のしるしに、イレーンを我が家に夕食に呼んでポークローストを用意した。
念のため、『もしかして、お肉食べれるよね?』と聞いてみたら、
『アナタ、私はアジア人よ。食べれないもんなんてないわ。』とアッサリ答えてくれて、おまけに次のような話をしてくれた。
イレーンはテキサス育ちの中国系のアメリカ人で、大人になってメイン州に移り住む事になったのだが、引っ越ししてまもなく、車でシカをひいてしまった。仕方がないから解体して、その日の夕食のおかずにしたという。その話は瞬く間にちまたに広がり、初めて会う人からも、『あなた、もしかして、イレーン?鹿を食べた人でしょ?』と当てられたらしい。
ただでさえ目立つ存在なのに、早くも”鹿喰いアジア人”イレーン、という余計な形容詞が名前の前につけられてしまった。
こんな話をあっけらかんと話すイレーンだが、立ち振る舞いは、いかにも育ちの良いお嬢さん、という感じで、聡明な印象を持つ人物である。
『あのね、いつも木曜日はロブスターパーティーがあるんだけど、みんなツメとシッポだけ食べて後は食べないからね、私はロブスターは注文しないでみんなの食べ残しを食べるの。それだけでも充分にお腹いっぱいになるわよ。あなたも今度一緒に来る?』
イレーンはべっぴんさんだから、みんなの食べ残しのロブスターを食べてもセクシーに見えるかもしれないけど、私が同じ残骸をあさっていたら、単なる”クレイジーで意地汚いアジア人”としか見られないからやめとく。と断った。
案外、人目を気にしてしまう日本人的気質が悲しい。
ダリの奥さん、ガラは長旅に出かける際、可愛がっていたウサギをどうしようかと迷っていた結果、その日の夕食に食べたらしい。そんな超越した現実的な性格は求めないが、せめて、自分が誤って殺した動物を責任持って食べれるような真摯な人間に近づきたいと思う。
イレーンのHP:http://www.elainekng.com/
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