
唐津から『赤紙』が届いた。
11月のあたまには『唐津くんち』という三日間に渡るお祭りがあるのだけど、
唐津っ子にとっては盆と正月よりも大事な行事で、この日のために料理の準備に自分たちの生活は100%無視されてしまう女子にとっては戦争のような日々なのである。
アメリカに渡って以来、くんちとは離れた生活をしていたが、八十歳にもなる伯母がまだくんちになると采配を振っていると聞くといたたまれない思いがする。
母もとうに七十は超えているけれど、まだ自分より年上の姉が腰を曲げて働いていると、自分だけ休憩することは気が引けるらしい。
台所に女が集まるとどういうことになるかというと、まさに軍隊のように、きちんとヒエラルキーが存在している。
歳の順で、伯母→母→叔母→義姉→従姉妹→(自分はミソクソ)という設定で、これに逆らうものは誰もいない。
お料理教室のコマーシャルに出てくるような、お花畑で蝶蝶が飛んでいるようなムードではない。
ここは戦場なのだ。
自分は台所にいるのは好きな方だけど、他の人がいると気が散ってあまり好きではない。
なので、くんちの台所ではだれにも逆らわず、部屋の片隅でキュウリの千切りをしたり、サンドイッチのパンにバターを塗る仕事にいそいそと専念することにしている。
去年は帰国を早めて久しぶりにくんちの手伝いでもしようかとおもっていたら、珍しいことをすると雨が降る通り、その年に叔父が亡くなりくんちは自粛することに。
まさに、不幸中の幸いであった。
従姉妹たちは子供たちを連れてディズニーランドへ出かけた。
この時期になると、お囃子の練習で竹笛の音や太鼓の音が聞こえてきて、唐津の町は徐々にくんちモードに覆われているのだろうなあと想う。
唐津男児は肉襦袢(にくじゅばん)や半被(はっぴ)に自分でアイロンをかけたりしながらくんちを待ち遠しく感じているのであろう。
この江戸時代のファッション、『肉襦袢にパッチに雪駄』という姿はどんな不細工な男が身にしてもそれなりにかっこ良く見えてしまう、というトリックがあって、普段冷静な女子も、この魔法にはころりとやられてしまう。
そして、唐津男児と結婚した者は一生後悔する。
独身女子のみなさま、くんちにはくれぐれもご注意くださいますよう。
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